村上春樹風に語る避暑地の靴
やれやれ。まったくやれやれだ。
軽井沢の砂利道というのはいかにも軽井沢らしい情緒を醸し出すためには絶対必要不可欠な象徴的で情緒的なアイテムなのだけれど、都会のほぼ真っ平らに舗装された地面に慣れた足には危なっかしいことこの上ない。パリ・ダカールラリーのコースみたいに、一つとして平らな場所がないのである。
砂利道での一歩一歩はまるで歴史的なステップみたいに個別具体的でしかも画期的で、追分の家からアスファルトで舗装された道に出るまでの675歩はまるで月面を歩いているみたいな緊張感に包まれる。実際、突然足元に現れた(本当に何の予告もなく姿を現すのだ)ミニチュアのアンコールワットのような積石に足をとられて全治1週間の捻挫に見舞われたこともある。
こういうときは歴史に教訓を求めるのが上品なおとなのやり方だと思う。1969年の7月。アメリカのアポロ11号が人類として初めて月面に降り立ったとき、ニール・アームストロング船長の履いていた靴は世界でも類を見ない厚底だった。月面なんて誰も見たことがなかったから、本当のところ何があるかわかりゃしない。もしかしたら砂地の下にドイツ軍のダガーナイフよりも鋭利なブレードが潜んでいるかもしれないし、火星人の作った落とし穴があるかもしれない。そうした不測の事態に備える意味でも靴底は厚いに越したことはないのである。
軽井沢の砂利道だって同じことだ。いかにもリゾート地っぽい形と色だけで選んだスタイリッシュな靴は底が柔らかすぎて、砂利道の予測不可能な起伏の上ではまるで軟体動物のようにおもねってしまい、足首はウインブルドンのセンターコートで決勝を戦うテニスプレーヤーなみの耐久性を要求される。中野区の少年テニス大会で2回戦敗退の僕にはちょっと過酷な試練だ。
僕がTimberlandのスニーカーを買ったのはそういう極めて切実な肉体的要請による。
ネイビーにしたのは特に理由があったからではない。この型で僕のサイズに合うものがこれしかなかったからだ。
避暑地でネイビーのスニーカー。
やれやれ。僕はとっても遠いところに来てしまった気がする。
※くるみママ追記
今度は三島由紀夫風に書いてみて!
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